精神・認知症ケア

【認知症】認知症について簡単に説明します

院長
院長
認知症をまとめるのに時間かかりましたが、自分の知識の再確認にもなりました。治療についてまた別の機会で紹介しますが、ここで総論的な内容を記載しました。気になるところだけでも読んでみてください^^

認知症の定義と診断基準

代表的な認知症の診断基準には世界保健機関による国際疾病分類第10版(ICD-10)やアメリカ精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)があります。
これらの定義ではまず意識障害がないことを前提とした上で障害は生来のものではなく、いったん正常に獲得した後に持続的に低下すること、脳の形態的、機能的異常が基盤にあることが条件としています。されに、これらの異常によって、社会生活や日常生活に支障をきたしていることが認知症の定義の1つの条件になります。

DSM-5による認知症(Major Neurocognitive Disorder)の診断基準

A. 1つ以上の認知領域(複雑性注意、遂行機能、学習性および記憶、言語、知覚—運動、社会的認知)において、以前の行為水準から有意な認知の低下があるという証拠が以下に基づいている:
(1) 本人、本人をよく知る情報提供者、または臨床家による、有意な認知機能の低下があったという概念、および
(2) 可能であれば標準化された神経心理学的検査に記録された,それがなければ他の定量化された臨床的評価によって実証された認知行為の障害
B. 毎日の活動において,認知欠損が自立を阻害する(すなわち,最低限,請求書を支払う,内服薬を管理するなどの、複雑な手段的日常生活動作に援助を必要とする)
C. その認知欠損は、せん妄の状況でのみ起こるものではない
D. その認知欠損は、他の精神疾患によってうまく説明されない(例: うつ病,統合失調症)
*American Psychiatric Association. Diagnostic and statistical manual of mental disorders, Fifth Edition. DSM—5. Arlington, VA. American Psychiatric Association, 2013)

NIA-AA による認知症の診断基準

1.仕事や日常生活の障害
2.以前の水準より遂行機能が低下
3.せん妄や精神疾患ではない
4.病歴と検査による認知機能障害の存在
1)患者あるいは情報提供者からの病歴
2)精神機能評価あるいは精神心理検査
5.以下の 2 領域以上の認知機能や行動の障害
a.記銘記憶障害
b.論理的思考,遂行機能,判断力の低下
c.視空間認知障害
d.言語機能障害
e.人格,行動,態度の変化
*(McKhann GM, et al. Alzheimers Dement. 2011; 7: 263-9)

院長
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 これまでの診断基準(上記)はAlzheimer型認知症が最重要疾患として想定されていたので、記憶障害の存在に重点がおかれすぎていた傾向がありました。最近の診断基準(国際アルツハイマー病協会(NIA-AA)の基準やDMS-5の基準)は記憶障害を特別視しない方向で改定されています。

認知症の症状

認知症では記憶、言語、空間認知などの認知機能の障害がみられます。それに伴って、認知症の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia, BPSD)を呈することもあります。

主な認知機能障害

認知症では疾患ごとの機能低下部位を反映し、複数の認知機能に障害が認められます。
障害される主な認知機能として、注意、記憶、言語、行為、遂行機能、視空間認知、社会的認知などがあります。
認知症の症状
(出典:日本神経学会 認知症診療ガイドライン2017)

行動・心理症状(BPSD)

BPSDは認知機能障害を基盤に、身体的要因、環境的要因、心理的要因などの影響をうけて出現します。焦燥性興奮、攻撃性、脱抑制などの行動面の症状と、不安、うつ、幻覚、妄想をはじめとする心理症状があります。主に以下の4つに分類されます。

1.活動亢進が関わる症状

 焦燥性興奮(agitation)、易刺激性(irritability)、脱抑制、異常行動などが含まれます。もの忘れなを自覚し、不安、焦燥感が出現すると、いらいらして些細なことで不機嫌になることがあります。それに周囲の不適切な対応が加わることにより、暴言・暴力などの攻撃性や興奮へと発展することもあります。異常行動には徘徊や攻撃的行動などがあります。徘徊は「現在の場所がわからない」など失見当識や自宅を再認できない健忘など種々の認知機能障害が背景にあり、個々に応じた対応が必要となります。攻撃的行動は見当識が低下した状態で身体接触を誘因に出現したり、妄想を基盤に出現したりとその背景は一様ではありません。また、前頭側頭葉変性症frontotemporal lobar degeneration (FTLD)では、早期から脱抑制が目立ち、攻撃的行動がみられることがあります。

2.精神病様症状

幻覚・妄想、夜間行動異常などが含まれます。妄想は訂正のきかない誤った思い込みで、健忘や誤認などを背景に心理的要因などが加わって生じます。Alzheimer型認知症では健忘を背景としたもの盗られ妄想や被害妄想。Lewy小体型認知症(dementia with Lewy bodies; DLB)は誤認や幻視・錯視を背景にした嫉妬妄想や幻の同居人妄想などがよく知られていますが、これはBPSDというより、中核症状として考えられています。

3.感情障害が関わる症状

不安うつ状態はAlzheimer型認知症では早期に認められることが多いです。認知機能低下の自覚から不安、焦燥を生じ、環境的要因なども加わってうつ状態を合併することがあります。また、一部の症例と研究からうつや不安症状は反応性ではなく、疾患自体の進行によるものの可能性も指摘されています。
そのほかに、Lewy小体型認知症(DLB)では経過中、過半数の症例にうつ状態が認められ、DLBの診断基準の支持的特徴に含まれています。うつ状態がDLBの初発症状となることも少なくありません。

4.アパシー

アパシーは自発性や意欲の低下のことをいいます。情緒の欠如などの感情面、不活発などの行動面、周囲への興味の欠如などの認識面に表れます。症状の類似性からうつ状態との鑑別が問題となりますが、悲哀感や自責感などを欠くのがアパシーの特徴です。アパシーは認知症のタイプによらず高頻度にみられます。

認知症の検査と診断

認知症の診断は病歴聴取と身体的および神経学的診察が重要です。認知症の症状、重症度を包括的に把握し、認知機能検査、形態画像検査(CTまたはMRI)、脳機能画像検査、血液・脳脊髄液検査などを行い、認知症の病型診断を行います。同時にせん妄、うつ病、薬剤誘発性認知機能障、水頭症など治療可能な認知症を見逃さないように注意しなければばりません。認知症は「獲得した複数の認知・精神機能が、意識障害によらないで日常生活や社会活動をきたすほどに持続的に障害された状態」とされ、診断するのに以下の2つのステップとしてまとめられます。

1.認知症であるか

認知症であるか否か、すなわち後天的かつ慢性の認知機能障害により常生活機能が障害されていることを包括的に確認する必要があります。問診と認知機能検査を行います。一般的によく用いられるのは、知的機能や認知機能を把握するための検査で、患者さんに負担がかからないように、短時間で無理なく行います。代表的な検査には、以下のようなものがあります。

1. 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
正常な高齢者から認知症高齢者をスクリーニングする目的で作られた検査で、高齢者のおおまかな知的機能の障害の有無や程度を判定することができます。
年齢、今日の日付、今いる場所、単語や物品の即時記憶、計算(引き算)、数字の逆唱、野菜の名前の想起など、9項目の問題があります。
満点は30点で、20点以下の場合は、認知症である疑いが高くなります。

2. Mini Mental State Examination(MMSE)
長谷川式簡易知能評価スケールと似た問題が多くあります。加えて、図形を模写する視空間能力、文章の記載をする言語能力に関する項目があります。
問題は11項目あり、満点は30点で、24点以下の場合は、認知症である疑いが高くなります。

2認知症の原因を見極める

認知症の原因検索のために、身体診察、画像検査、血液・脳脊髄液検査など各種検査を必要に応じて行います。認知症と診断した場合、頭部CTもしくは頭部MRIの形態的画像検査を実施することが望ましいとされています。血液検査では甲状腺ホルモン、電解質、空腹時血糖、ビタミンB12、葉酸の測定が推奨され、病歴に応じて血清梅毒検査とヒト免疫不全ウイル(HIV)検査を実施することもあります。非典型病型など鑑別が困難な症例の場合、脳脊髄液検査を追加することもあります。

認知症診断フロチャート
(出典:日本神経学会 認知症診療ガイドライン2017)

認知症の経過

アルツハイマー病に関して、進行の段階についてニューヨーク大学のバリー・ライスバーグ博士によ7段階の枠組みが考案されています。以下に簡単に紹介します。

段階1: 認知機能の障害なし(通常の機能)

認知能力に障害のない人は記憶能力の低下を経験しておらず、医療専門家との問診において問題がみられない。

段階2: 非常に軽度の認知機能の低下(加齢に関連した正常な変化、またはアルツハイマー病の最初期の兆候)

度忘れしたように感じる。特に慣れていた言葉や名前、鍵やめがねなど、日常的に使用する物の置き場所などを忘れる。 しかしながら、これらの問題は健康診断や友人、家族、あるいは同僚からも気付かれにくい。

段階3: 軽度の認知機能の低下

このような症状を持つ人の一部が初期段階のアルツハイマー病として診断される。 友人,家族,同僚などが変化に気づき始める。 記憶あるいは集中力における問題が臨床試験で計測可能な場合がある,あるいは詳細な問診において識別される場合がある。 一般的には次のような困難が見られる:

・家族やその他の親しい人々が、言葉あるいは名前が思い出せないのに気づく。
・新しく知り合いになった人の名前を覚える能力が低下する。
・家族や友人、同僚から社会的あるいは職場における任務遂行能力の低下に気づく。
・文章を読んでもほとんど覚えていない。
・物品を失くす、または置き忘れる。
・計画を立てたり整理する能力が低下する。

段階4: 中等度の認知機能の低下(軽度あるいは初期段階のアルツハイマー病)

この段階では,注意深い問診により次のエリアにおいて明白な障害が発見される:

・最近の出来事についての記憶と認知が低下。
・難しい暗算(例:100から7ずつ引いていく)が難しくなる。
・複雑な作業(例えば計画を立てる、お金の計算、支払いの管理などの実行能力の低下。
・自分の生い立ちについての記憶の減少。
・特に社交的、あるいは精神的に困難な状況において、引っ込み思案になる。

段階5: やや重度の認知機能の低下(中等度あるいは中期段階のアルツハイマー病)

記憶に主要な欠落箇所が見られ、認知機能における障害が見られる。 日常活動においてサポートが必要となる。 この段階では次のような症状が見られる:

・現住所、電話番号、卒業した大学や高校名といった大切な情報を思い出せない。
・場所、日付、曜日、季節などが混乱する。
・より簡単な暗算を解くことが困難である(例:40から4ずつ引く,あるいは20から2ずつ引く)。
・季節や状況に応じた服装を選ぶのに助けがいる。
・通常は自身について簡単な認知は保たれる(自分の名前、配偶者の名前、あるいは子供の名前は覚えている)。
・通常は食事およびトイレの使用に手助けを必要としない。

段階6: 重度の認知機能の低下(やや重度あるいは中期段階のアルツハイマー病)

記憶障害が進行し、性格の大きな変化が見られたり、患者は通常の日常活動に大幅な手助けを必要とする この段階では、次のような症状が見られる:

・最近の経験および出来事、および周囲の環境についてほぼ認識しない。
・自分の生い立ちについては完全に思い出せないが、通常は自分の名前は覚えている。
・配偶者や主要な介護者の名前を時々忘れるが、通常は知り合いと知らない人の顔を見分けることができる。
・適切な着衣に介助が必要である。介助なしでは、日中用の洋服の上に寝巻きを重ねたり、靴を反対に履くことがある。
・通常の睡眠/起床サイクルが乱れる(昼夜逆転)。
・トイレ使用に介助が必要である。
・尿や便失禁の頻度が増加する。
・性格が大きく変化し、疑心や妄想(例:介護者を詐欺師だと思い込む)、幻覚(現実にはない物/音を見たり聞いたりする)、ティッシュペーパーを引きちぎるなどの強迫的または反復的な行動などの行動的症状がみられる。
・徘徊し迷うことがよくある。

段階7: 非常に重度な認知機能の低下(重度あるいは後期段階のアルツハイマー病)

これはアルツハイマー病の最終段階であり、患者は環境に反応したり、会話したり、最終的には体の動きを制御する能力を失う。この段階でも単語や文章を口にする場合がある。
この段階の患者には食事やトイレの使用を含めたほぼ全般的に日常介護が必要である。微笑んだり、座ったり、頭を正面に向けて保つことができなくなる場合もあり、異常な反射反応が出現し、筋肉が硬直する。
嚥下に障害が出る。
認知症の経過

認知症の予後

認知症と言っても病型によって進行スピードや生命予後は異なります。一般的な傾向として、Alzheimer型認知症は進行が緩徐で生命予後が良好とされており、Alzheimer型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症の順に生命予後は悪くなっていくとされています。わが国の久山町研究においても、診断からの10年生存率はAlzheimer型認知症で18.9%,血管性認知症で13.2%,混合型で10.4%,レビー小体型認知症で2.2%と同様の傾向を認めています。

また、認知症の生命予後に関してはさまざまな研究結果があり、発症からの生命予後の中央値は3~12年(多くは7~10年)、診断からの生命予後は3~7年と幅が広く報告されています。病期別の良質な疫学データは乏しいものの、高度認知症の生命予後が1.4~2.4年であったとする系統的レビューもあります。

重症認知症患者の直接的な死因としては肺炎をはじめとした呼吸器疾患が多いとされていますが、他の最期のパターンとしては、認知機能が衰えて寝たきりとなり、食べ物を食べられなくなって衰弱死するというものもあります。このようにして死亡した場合、日本では死因は誤嚥性肺炎や老衰とされることが多く、統計上では血管性等の認知症やアルツハイマー病の死因順位はそれぞれ9位、10位とそれほど高いわけではありません。

院長
院長
最後まで読んでくださってありがとうございます。診断し治療することを仕事としてきたわれわれ医療者は肺炎などに対して過剰な介入を行いがちなことに自覚的であるべきだと思います。目の前の患者の生命予後はどの程度か、終末期であれば治療のゴールは何なのか、常に自問しながら診療を行うことが患者・家族の思いに沿った医療のための第一歩であると考えています。