精神・認知症ケア

レム睡眠行動異常症

院長
院長
睡眠障害の一つであるレム睡眠行動障害について勉強したのでここでまとめてみました。よかったら読んでみてください

レム睡眠行動異常症(RBD)とは

レム睡眠行動異常症(RBD:rapid eye movement sleep behavior disorder)はレム睡眠に生じる睡眠時随伴症です。睡眠中に逃れようとしたり、争ったりする夢に関連した行動異常、夢の行動化が起こり、患者自身やベッドパートナーが負傷する場合もあります。

レム睡眠行動異常症の原因

RBDは原因不明の特発性 RBD(idiopathic RBD; iRBD)と、他の疾患を背景とする症候性RBDに分類されます。症候性RBDの原因としては、パーキンソン病(Parkinsonʼs disease; PD)、レビー小体型認知症(Dementia with Lewy bodies; DLB)、多系統萎縮症(multiple system atrophy; MSA)といった αシヌクレイノパチーが多いです。また、てんかん、夜間せん妄、低血糖を含む代謝性意識障害などがあげられます。
主な鑑別点として、原則としてRBDの場合は刺激による覚醒は速やかであり、覚醒後、夢と行動の内容を想起すること(dream recall)が可能であり、見当識障害がみられません。てんかん、夜間せん妄など意識障害の場合には刺激による覚醒は困難であり、夢の再生も不可能だとされています。

また、以下の疾患でも原因となることがあります。

αシヌクレイノパチー以外の神経変性疾患
マシャドジョセフ病/脊髄小脳変性症3型や進行性核上性麻痺などが知られているが稀である。通常、神経症状に先行してRBDが出現することはない。

薬剤・中毒
若年者の RBD では薬剤・中毒の頻度が高いため、内服薬を確認しましょう。慢性薬物中毒の離脱時や急性薬物中毒にRBDを合併することもあります。前者としてはアルコール、バルビタール剤、ベンゾジアゼピン、ペンタゾシン、覚せい剤などが原因として挙げられています。後者としては抗うつ薬(三環系抗うつ薬,選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、抗コリン薬、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬、抑肝散などが報告されています。カフェインの過剰摂取もRBDを増悪させる原因として報告されています。

ナルコレプシー
若年者の RBD で日中の過眠を認めるときはナルコレプシーを疑いましょう。ナルコレプシーに伴うカタプレキシーに対して使用した三環系抗うつ薬、選択的ノルアドレナリン・セロトニン再取り込み阻害薬がRBDを増悪することがあり、注意が必要です。

脳幹の器質的病変
脳幹病変に伴うRBDとして多発性硬化症、クモ膜下出血、橋や延髄の脳卒中、血管炎、腫瘍などが報告がされています。また辺縁系脳炎や抗Ma1/2抗体による傍腫瘍症候群でも合併し、免疫療法と腫瘍に対する治療が有効であることも報告されています。REM期の筋活動抑制に関与するREM睡眠実行系として、橋の青斑下核や、延髄の巨大細胞性網様核が知られていますが、動物実験でこれらの部位の破壊によりレム睡眠中の骨格筋活動が上昇すること、ならびに一側の病変であってもREM期の筋活動抑制を阻害し、DEBを起こすことが報告されていますので、急性発症のRBDでは頭部MRIにて橋延髄の病変も鑑別しておく必要があります

診断

RBDを疑った場合、まずスクリーニングを行う。RBDのスクリーニングにはRBDスクリーニング問診票(5 点以上でRBD疑い)が有用です。


確定診断には睡眠ポリグラフ検査(PSG)が必須である。
睡眠ポリグラフ検査にて,レム睡眠期に正常では骨格筋の筋緊張の抑制がみられるが,RBD患者では筋緊張の抑制の障害(RWA:REM sleep without atonia)がみられる.診断には睡眠ポリグラフ検査にてRWAとレム睡眠中の異常行動が観察されるか,あるいは病歴から異常行動のエピソードの聴取が必要である.

レム睡眠行動異常 診断基準(ICSD-3)

A. 反復する睡眠に関連する発生と、または複雑な運動行動のエピソードがある.
B. これらの行動はPSG検査で確認される、またはレム睡眠中に起こったと推定されるゆみの行動化の病歴
C. PSG検査上の筋緊張の抑制に伴わないレム睡眠(RWA:REM sleep without atonia)の検出
D. この障害は他の睡眠障害、精神疾患、薬物使用によらないことと記載されている。

また、閉塞性睡眠時無呼吸症候群では呼吸再開時の中途覚醒時にRBDに似た様な症状を呈する場合があり、注意が必要である(pseudo RBD)。

治療と対処方法

まず異常行動に伴う危険への対処法について説明を行います。

怪我を防ぐための指導ポイント

  • ベッド周りに危険物を置かないなどの環境調整を行う.
  • ベッドは窓から離す.
  • 布団の場合,立ち上がりやすくなり,歩くリスクが上がることに注意する.
  • 日中のストレスで増悪しうるため,ストレスを避けるよう指導する.
  • アルコール摂取により症状が増悪するため指導を行なう.
  • ベッドパートナーは症状が安定するまで別室に寝てもらう.また呼びかけで落ち着くことを教える.

もし夜間の異常行動が終夜睡眠ポリグラフ検査(polysomnography; PSG)のビデオや家族によるスマートフォンなどで記録されていれば、本人に供覧する。本人に夜間の異常行動の危険性や治療の必要性を理解してもらうために有用である。一方、家族には異常行動は本人の人格のせいではないことを説明する必要があります。RBDによる怪我の危険がある場合や本人・家族に希望がある場合には薬物療法を行います。

薬物療法として,クロナゼパム 0.25~0.5 mg就寝前投与が有効である.高齢者では特に翌日への持越しに注意し少量から投与する.他に抑肝散2.5gやプラミペキソール0.125-0.25mgが有効な症例も報告されています。

院長
院長
在宅診療では睡眠障害をよく診療します。せん妄と睡眠行動異常との鑑別をしっかりしておきたいですよね

<参考文献>
高齢者の神経疾患における睡眠障害;Dokkyo Journal of medical sciences 44(3):271-282, 2017
高齢者睡眠障害の特徴とその対策;日本内科学会雑誌 第103巻 第 8 号
(REM)睡眠行動障害の診断,告知,治療;臨床神経学 57 巻 2 号(2017:2)
レム睡眠行動異常と神経変性疾患;認知神経科学 Vol.17 No.1 2015